Serialization

瞬間前進

第6回 『ここは、奥座敷』

「私はここを“可児の奥座敷”だと思ってるんです」
「ここ」とは、岐阜県可児市にある荒川豊蔵資料館。この資料館は、故・荒川豊蔵(重要無形文化財保持者に認定された、昭和を代表する陶芸家)の作品や収集された古陶磁器が展示されている。また、昨年5月から旧荒川豊蔵邸の敷地を居宅・陶房と共に一般公開された。
 ここを訪れた理由は、来る撮影に向けてのロケハン。光量を確認するため、居宅内のみ撮影する予定であったが、学芸員の方のご厚意により、館内を案内していただくことになった。
 学芸員の方の解説を聞きながら、居宅を目指す。すると、鳥の鳴き声、せせらぎが耳に飛び込んでくる。なぜか私は、意識的に耳を澄ました。この時期特有の緑の香りがする、優しい風が身体をすり抜けると、草木が擦れる音が聞こえ、幾重の自然音を感じた。
「時間がゆっくり流れている感じがしますね。それより止まっているような」と、表現力乏しい言葉を私は口にした。いや、素直に感じたままを口にしたのだ。
 学芸員の方は、冒頭の言葉をかけてくれた。なるほど、「言い得て妙」とはこのことで、確かに奥座敷の様な、ゆったりとした空間である。
 気付けば閉館時間が迫っていた。やはり、時は止まってはいなかった。しかし、時の流れを忘れていた。いや、この空間が忘れさせてくれていたのだ。
 ここは、奥座敷。  

(中村)

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