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第2回 「成りたい人に成る」
                      塚田薫


ステージにいる人たちの話は洗練されて、面白くて、笑ったり、泣かされたり、共感したりした。
でもさ、そっちは通信社とか新聞社の腕章をつけたプロの人たちに任せようと思う。
「LGBT 名古屋 成人式 2018」でググるといい。
僕は客席にいる人たちにひたすら話しかけた。
「文筆業」
あとは名前と連絡先。
それだけの名刺を差し出し取材を開始。唯一の機材は借りてきたコンデジ。
断られることもあるだろうと思っていたけど、みんな応じてくれた。のはいいんだけど取材と関係ないことばかり話していた気がする。
なんでファミコンゲームの思い出話をしているんだ?(ドラクエⅤの久美沙織のノベライズはジュブナイルの最高傑作だ!)
なんで飲酒や喫煙の害について説明されているんだ?(「悪い」ことをやる自由だってある!)
バレンタイン爆発しろ(異議なし!断固粉砕!)
不器用で、慣れてなかったり、とりとめのない、言いよどんだり、初恋とか、脱線したり、させたり。
それでもとにかく取材のテンションをテキストで実況中継。取材ノートの走り書きはまるで暗号で、解読キーは記憶と印象だけ。


LGBT 成⼈式 2018 名古屋
「成りたい人に成る」

早く来すぎた。
2018/02/10土曜日午前11時半。がらんとした週末の東別院。朝食は食べていない。
同行する編集者との待ち合わせを一時間勘違いした。開場は13時、待ち合わせは12時半。
仕方無しに会場近くをぶらついていると松岡さんが通りがかる。成人式を主催するASTAの共同代表、黒いニットをタイトに着こなし、かつかつとまっすぐ歩く。
挨拶もそこそこに昼飯を食える店を尋ねると、すぐ近くの中華料理屋が美味いとのこと。
言われたとおりの店に入る。醤油ラーメンと天津飯のセットを頼むと煙草に火をつけて今日のプランを練る。事前取材での松岡さんの言を思い返す。
「五人目あたりから頭が疲れてきて」、「(セクシャリティはその人の)アイデンティティの一部にしか過ぎない」とナチュラルに理解できてくる。百人組手みたいなものだ。余計な力が抜けて、本質に迫る。

ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー、Aセクシャル、Xジェンダー、セクシャリティ、ジェンダー、マイノリティ。たしかにこう横文字を並べてみると理論武装がしたくなる。助けてグーグル先生!教えてウィキペディアン!
しかし当事者がたくさんいる場所に飛び込んで話しまくると、恋したり、しなかったり、泣いたり笑ったりしながら当たり前に暮らしているそれぞれの人格と生活がある。これがわかる。こちらのほうがよほど大事。
なんとなく大文字で「性的少数者」とか考えてしまうと見えなくなってしまう部分だ。
みんな普通に生活してる。
と、僕は松岡代表の話をこんなかんじに受け止めた。理論武装も大事だけど、感覚だって大事だ。
ASTAの出張授業や企業研修はこうした見識を踏まえたワークショップ形式でも行うことがある。
参加者をいくつかのグループに分け、各々に当事者がついて参加者と話す。
グループワークは通常1クール20分間。それを3回。出てくる話題は世間話から、もちろんセクシャリティーについても。会話、馬鹿話、内緒話。
重視しているのは対話。

時間で切ってまた別の当事者が回ってきてまた喋りまくる。これを繰り返すことで「セクシャリティって、その人の一部でしかないよな」を体験する。
たしかに僕は生物学的にも自意識的にも男で、これまでのパートナーは全員女だったが、別にそれは僕自身の物語の一部でしかない。 一部でしかないとか言うと彼女に怒られるかもしれないけど、そのほかにも好きな本とか、仕事とか、趣味とか、生い立ちとか、考え方とか色々ある人格の一部。

料理がきた。
ギミックやキャラクタに走りがちなラーメン屋が多いが、こういう中華料理屋で出てくるラーメンは素朴だ。天津飯もとろりとふわり。食後のコーヒーまでついて700円。美味い。松岡さんの言ったことは当てになりそうだ。

編集N氏と合流して会場へ。ん?なんだ、なにか懐かしい匂いがするが、すでに入場が始まっているエントランスではスタッフが忙しくしていて、その中に松岡代表を発見。改めて挨拶をしつつ取材ルールを確認する。

取材ルール

・出席者へのインタビューは個別に確認をして同意してくれた人だけ。
・会場内での撮影はNG。
・出席者を撮影する場合は個別に確認して、エントランスに写りこみ防止のため設けられた専用ブースで撮ること。
確認、オーケー。

そのまま受付をするが、取材で来た人は無料でいいと言われて気を良くしていたところ、会場へ入っていく出席者にスタッフがLUSHの紙袋を手渡している。この香りだ。
ほ、ほしい。僕の物ほしそうな顔に「これもありますよ」とレインボーカラーをあしらった木製のパズルピースのアクセでダメ押し。参加費500円払って諸々の品を受取る。
高校時代に星ヶ丘テラス店に通い詰めた。実った恋とその終わりも過ぎ去った夢も離れていった友達も大学受験当日の朝風呂もヤケ酒と寝ゲロを洗い流すシャワーも全て記憶はLUSHの香り。女の園みたいな店内にどぎまぎしていた僕に優しく話しかけて商品を試させてくれたお兄さんがいたあの店。
このあたりから取材できていることを忘れ始めていたのかもしれない。
LUSHは企業として「LGBT支援宣言」を発信しており、LGBT成人式でも古参サポーターだ。
パズルピースを首からぶら下げて会場に入る。
見渡す。
羽織に着流しの商家の若旦那風
スネークスキンのセットアップ
結婚式の二次会風のドレスワンピ
ポプテピピックTシャツ
あたりの服装の参加者に目が行ったが、全体としてはカジュアルな印象。スーツ姿も何人かいた。それぞれが着たい服を着ている。実は僕も成人式の取材ということでスーツで来ようかと悩んだけど、結局辛子色のステンカラーコートにスキニーにした。このフランシスキャンペリのコートは一目惚れだった。試着室の鏡に映すと冴えない青年がすこしマシに見えた。駆け出しライターにはすこし贅沢な値段だったけどATMに走った僕なりの一張羅だ。
ファッションは自分がどんな人間であるかを主張する。
自分がこうありたいと望む、または本来あるべき自分と馴染むものを選んで、まっとうな手段で得たお金で買って、少し緊張しながら纏う。鏡を見る。自分が誇らしくなる。「成りたい人になる」一つのやり方だ。ある人たちにとっては、きっと僕よりずっと切実に。

会場内にはいくつかテーブルが設置されており、そこに各々座る。サービスの飲み物は全てチェリオ。チェリオもまたサポーター企業だ。 チェリオ!ライフガードを飲みまくった小学校時代!いつもの自販機では100円で500ml缶が買えたから走り回ったあとはいつもライフガードだった。いまでは仲間とストロングゼロ飲めるけれどなんだが泣けてきちゃったよ。

やや開始が押していたので、近くにいた運営スタッフの何人かに話しかける。
そのうちの一人、スーツを着た現役大学生。ちなみに僕の通っていた大学の後輩。大学でジェンダーに関わる講義をうけたのをきっかけにLGBTや関わる問題に興味を持ちASTAの活動に参加するようになったという。
彼自身は当事者ではなくいわゆるアライだ。スタッフには学生が多く賑やかだ。ここ10年ほどのあいだに東京の大学から始まり各地の大学でLGBTについて考える自主サークルはどんどん増えているという。
もっと聞きたかったが式典が始まったので礼をいって席へ戻る。

河村たかし名古屋市長からの祝電が手話通訳つきで読み上げられる。なんだか成人式っぽい。
続いて小浮正典豊明市長が登壇し祝辞を述べた。豊明市は愛知県内では初めて「LGBTともに生きる宣言」を発し、ASTAと啓発・教育事業で提携する協定を結んでいる。
「様々な壁を壊し、この世界をもっと広く、平和に」と締めくくった。聖書の「地の塩、世の光」をぼんやりと思い返した。
入れ替わり名古屋市立八王子中学の上井靖校長が壇上に立つ。校長先生だけあって話し慣れているが、雰囲気は僕のイメージする校長先生というよりもグレイのベストを粋に着こなすナイスミドルだ。
ASTAは同中学で職員研修から始まり、保護者向け講習、そして全クラスでの出張授業を行ったという。
きっかけはASTA共同代表の久保氏だ。現在大学に在学中の同氏は、教育実習先で教職員の「不適切な発言」(校長談)に接した。それをひょんなことから知り合った校長に直訴したことが八王子中学での事業につながった。
いつのことだったかを語るときに年齢のよりも「あれは中三の~」や「高二で」などの学年がよく使われるように、学校という枠は多くの人に強烈に内面化されている。
僕は中学は転々と四校、高校も速攻ドロップアウトだったのでよくわからない感覚だけど、個別に話をしてくれた参加者も学年で語っていた。

出席者を代表して小野寺紫郎氏と母の小野寺美佳子氏が順に壇上から自身の経験を語る。青年は下ろしたてのスーツをまだ着慣れていないといった感じの初々しさがあり、母は細やかなビーズがあしらわれたジャケットで華やかな雰囲気だ。
一つの物語が子と母それぞれの目線から語られる。
後にバイセクシャルであると自覚する彼は、小学校に入る前から周りと自分とに違和感があった。小学校に入るとすぐにいじめが始まる。 息子が学校へ通えなくなった母は担任に相談した。「怠け癖をつけさせてはいけない」と返ってきた。保護者からしたら「先生」はプロだ。なんでも魔法みたいに解決してくれる。
その言葉を信じた母は「義務教育なんだから学校行くのが仕事だ」と息子を叱り飛ばし地獄のような教室へ送り出す。息子の顔は死んでいく。二人の地獄。
物心ついた頃からの違和感は、やがて自身がバイセクシャルであるという自覚へ変わった。打ち明けられる相手もいない。もしバレたら大変なことになる。
完全に行き詰まった。息子と車に乗っている時に、母はふとこのまま死に場所を探しにいこうかと考えたことも一回ではない。
もし本当にそうしていたとして、息子は拒否しただろうか?
「すべてを解決してくれる魔法使いなんかいない」と母は語った。それでも日々は続く。
中学を卒業するまでいじめはやまなかった。高校は中学の同級生と顔を合わせないように通信制を選んだ。
学校には辛いことばかりだったせいで不安はあったが、あっけなく馴染めた。生活は一変した。友達もでき、そして現在のパートナーであるKさんとも出会う。
母は息子との会話の中でKさんがよく登場するようになったこと、そして彼のことを話す息子が完全に恋をしている顔になっていることに気付いた。
高校を卒業した頃に息子から打ち明けられた。自身がバイセクシャルであること、現在男性のパートナーがいること。そのことを母はすぐに受け入れられたわけではない。驚きだってした。しかし心が死んだようだった息子をこんなに幸せそうに笑わせてくれる恋人がいる。それは事実だ。
「未来は明るくなる」
最後に紫郎さんは言い切った。照明が眩しいのかすこしはにかんだ様子。でもはっきりと。
打ち明けてから今までにどんな経緯があったのかはわからないけど、晴れ晴れと母と子は並んでいる。これも事実だ。
「一秒先から始まる未来は、温かく、幸せが降りそそぐ」
美佳子さんは天井からのライトを浴びながらゆっくりと語った。ジャケットのビーズがきらきらと光と拍手を跳ね返す。

第一部は終わり。
客席照明があがり、式典っぽい管弦楽が戻ってきて、人ががやがやと動き出す。僕と編集N氏はさっそく小野寺親子に話しかけた。そこで取材をと思ったが、他の記者ともかちあったし幕間は案外短く、すぐに第二部が始まるというアナウンスが流れた。
とりあえずは挨拶だけ。時間はある。


客席照明が落ちる。
るーるるーるるるるるーるるるー
式典っぽさBGMが徹子の部屋にかわる。第二部はドラァグクイーンのライラさんがホステスの「ライラの部屋だ」
アシスタントの渡辺さん、ゲストは薬師さん、有矢さんが揃う。それぞれLGBT当事者の立場から社会の中で生活することについて語り合う。
レディー・ガガのborn this wayに切り替わった。
My mama told me when I was young 
We are all born superstars.... 
何年か前の紅白に特別出演したガガが歌った曲だ。歌詞が気になったらググってくれ。ググって済むことはググって済ませよう。 ホステスのライラさんの司会がとんとんと話を転がしていく。

第三部は参加者を交えたゲームだ。互いに質問しあってビンゴを埋めていく会話ビンゴ、クイズ大会。格好のタイミングた。
「ライラの部屋」で出てきたキーワードを頼りに参加者にとにかく話しかける。
話しかける基準は目が合った、服装がナイス、なんとなく、なんでもあり。
名刺を差し出し雑談から。話し込んだり、すぐゲームに戻ったりその時その時の勢い任せだ。
こうきさんはスケート選手みたいな美少年と思ったけど、そのつもりで話していると何かおかしい。年齢を尋ねると僕より年上の30歳。驚く。
彼はFtMのトランスジェンダーだ。しばし立ち話。成人式の思い出なんかを聞く。
当時はまだ女性として生活をしていたが、成人式でなにを着るかでかなり迷ったらしい。
振り袖かスーツか。ライラの部屋でも出た話題。成人式っていうがっつりと公的であり、しかも私的でもある場所にどんな自分として参加するか。
悩んでいたが祖母が振り袖を買ってくれたので着ないわけにはいかず、振り袖で出席したとのこと。ばあちゃんにはかなわん。うちの姉も振り袖はばあちゃんに用意してもらっていた。ゲーム大会の景品を交換してわかれる。正月の福袋中身交換みたい。
学生グループをつかまえた。最初は一人ずつと話していたが、どんどん会話に加わってきて話が転がっていく。部室ノリだ。
まりかさんはざっくりとしたニットにグレイのスカートで学生さんの休みといった雰囲気のファッション。彼女はMtFだ。学校の養護教諭が発行する保健室便りをきっかけにトランスジェンダーという存在を知り、自身の違和感の正体を自覚する。しかし学校では教員が「不適切な」発言をすることもあり不信気味だったが。
「アンケートとかの性別欄って、なんの意味があるんですか?」
あめさんが言った。自身はエックスジェンダー、つまり自分自身の定義として女か男かという二分自体がフィットしない。むかつくからどうしてもというモノ以外は空白で出すという。
彼と彼女という人称代名詞しかない日本語の限界を感じる。英語だとthe person?気になってググってみたら、最近は性別を特定しない人称代名詞としてze(xe)が提唱されているらしい。
二つの性別という概念自体が僕の中でぐらぐらしてきた。それも言語レベルで。
あめさんは性別を特定される服を着ることにも抵抗があり、この日も白系のテーラードジャケットにゆったりとしたタートルネックのセーターを着ていた。
男でも女でもない「自分」には、社会はどう映るんだろう?
わいわいとしてきた。一緒にいたくうなさんが自分たちがやっているサークルについて説明してくれた。
同じような境遇の仲間たちが集まるサークルを自主的に運営しているという。それぞれ通う学校は違うが、集まって喋ったり、勉強会をしたり。でも真面目なはずの勉強会もいつの間にか駄弁り場になってわいわいとゲームをしたり。この日のメンバーはそこでの付き合いとのこと。
研究や支援を本義とする団体もあるが、むしろゆるやかな連帯、集まれる場所として活動をしている。たしかにわいわいとしつつもゆるりとした雰囲気だった。良い意味でサークルっぽい。
ゆるやかに、でもそこに居場所がある。この感じ。

クイズ大会が始まった。問題は普通の雑学クイズだ。
ガラパゴス諸島はどこの国?エクアドル!
ロボットは何語由来?チェコ語!
ベートーベンの父親の職業は?歌手!
こんなかんじ。
本気で勝ちに行くが六問目あたりで脱落。ディズニーチケットを逃す。既に話しかけた何人かと目が合い失笑される。
クイズも負けて暇になったので羽織りに着流しというかなり気になっていた人に話しかける。
はやしさんはとても丁寧に、言葉を選びながら、噛みしめるように自身のことを話してくれた。服装もあって商家の若旦那とかお茶の家元といった角の取れた雰囲気の44歳。
「なんとなく、この空間が好きで参加している」
三回目の参加で名古屋でのLGBT成人式は皆勤だ。
自身で語るところによると精神的にはかなり女性に近いゲイ。
中学生の頃、ゲームをやらないかと誘われた友人の部屋で押し倒された。
この記憶がはやしさんにとって青春の一コマなのか、それとも性暴力なのかと僕は測りかねていたが、話は続く。どちらにせよこれがきっかけだった。ゲイであることを自覚した。
高卒で就職して働いていたが、20歳頃にテレビで見た新宿二丁目の「オネェ」たちに憧れてなけなしの貯金を握り締め上京する。テレビで見たママの店に飛び込み水商売の世界に入る。バブル終末期、いわゆる「オネェブーム」の頃だ。
「ライラの部屋」でも話題にでていたけど、ネット世代以前では本当につながりを作るのが大変だったという。ゲイ雑誌の読者欄とか文通コーナーくらいで、実際に当事者たちが集まる二丁目に代表されるコミュニティの存在感は今よりももっと大きかったんだろう。
ここならなりたい自分になれる。
しかし一年たらずで挫折。帰郷。
「水商売っていろいろあるじゃないですか」とだけ。

家出した息子が東京で「オカマ」になった。
両親に精神科に強制入院させられた。今でこそ入院させるなんてことはそうそう聞かないけど、そういう時代もさほど遠くない。保毛尾田保毛男(ホモオダホモオ)がゴールデンでやってた時代だ。
退院後は何度か職についたが上手く馴染めず、不安や対人恐怖を伴う精神疾患のため来年から精神障害者のための作業所へ通うという。 そういえば来年度から企業に精神障害者の雇用が一定の割合で義務付けられたなと思いだした。
はやしさんと一緒にいた人とも話したかったが時間切れ。
誰だってきっとどこかに居場所は見つけられる。コミュニティか、人との関係か、誰かの隣なのか、わからないけど。
写真オーケーの参加者のみの集合写真の時間だ。会場の撤収時間が決まっているので非常にここからはタイトに進む。
すでに話しかけた人が何人か、話しかけられなかった人もたくさんが並んで、数社のカメラマンや記者の人がパシパシと。僕も脇からコンデジで邪魔にならないように何枚か。
まるで成人式だ。いや、成人式なんだけど。
照れてる人、はしゃいでる人、隅の方で笑ってる人、疲れた顔の人、ばらばら、年齢も、服装も、雰囲気も、その他もばらばらだけど違和感はない。成りたい人に成るんだから関係ない。

終了。
スタッフが猛スピードで片付けを始める。邪魔にならないようにそそくさと出口へ向かう。何人かと目が合い会釈したり、短く挨拶をしたり。
外は雨がこっぴどく降っていて、傘がないので小走りで駅へ向かう。
駅の近くで「それつけたままですよ」と呼び止められた。会場でもらったレインボーのパズルをつけたままだった。
会場にいた人だ。街ですれ違ったってわかりやしない。わかりやすい印なんてない。その人も雨の中を小走りで駅へ走っていった。電車を待つ人に紛れてもう誰だかわからない。
パズルを外して鞄にしまいかけたけど、サイドポケットからその虹をはみ出させておいた。この鞄だってボロいけどお気に入りだ。


追記
事前取材の前にASTAのホームページを観ていたら、劇団うりんこの話が載っていた。
名古屋に自社劇場を構え、長く活動しているプロ劇団だ。僕は実は演劇青年だったので
何度かうりんこの芝居を観たことがある。
LGBTをテーマにした「わたしとわたし、ぼくとぼく」を上演したという。
そのことを松岡代表に話したら、その劇はかなり好評だったらしく再演に期待したい。
気になったら「劇団うりんこ」でググってね。
追記2
本文に「オカマ」という語を使った。
よほど特殊な文脈(当事者が自称として使うとか)でない限り、強烈な侮蔑のニュアンスを帯びる言葉だ。基本的には公の場では使うべきではないし、僕もそれを自分の言葉として口にするつもりはない。
しかし語られていた時代の環境を象徴する語として敢えて用いる必要があると考え、カギ括弧に入れて引用した。
そういう言葉が平気で飛び交っていたんだ。
でも最近はこういうことに限らず言葉こそポリティカルコレクトが意識されるようになったが、発言内容がアレなことが、むしろアレであればあるだけ持て囃されるみたいな風潮がある。
追記3
松岡さんから(抜粋)
塚田様、編集N様、お世話になっております。松岡です。
成人式の中で繰り広げられた会話、楽しく読ませていただきました。
どんな事があったのか?実際にわからない状況でしたので、この文章を見て、
改めて、やってよかったんだなぁと安心しました。
誰もが自己否定しないですむ社会に少しでも近づいて欲しいです。
会場の前まで来ても、Uターンして帰る方もいらしたようです。式場に入るまでに何度も躊躇する人もいらっしゃるようです。これがまだまだ現実です。

ASTA 松岡